3月6日は島根県立美術館の開館20周年記念日です。1999年、企画展「水の物語」の開会とともに当館は開館しました。宍道湖の湖水の渚近くに斬新なフォルムを見せる建築に加えて、「水を画題とする絵画」を蒐集方針の冒頭に掲げる当館の出発を飾るに相応しい展覧会でした。華々しい出発と新生の力に依存していた時期を過ぎると、やがて内省を経て修正と改革の試行錯誤の時を迎えます。開館後20年に過ぎない私たちの美術館は、未だこのような基礎を積み上げつつある若い施設です。
20周年記念日を迎え、その品質と規模ともに世界有数の北斎研究蒐集である永田コレクションの「北斎」展を開催しました。コレクション寄贈者の永田生慈氏は数ヵ月をかけてすべての作品の点検確認など寄贈のための作業を終えて後、昨年逝去なさいました。貴重なコレクションの寄贈は、美術館の施設・組織・活動すべてに対する信頼と評価の顕われと受け止めても良いのではないでしょうか。当館の蒐集活動は2010年以降、購入は凍結されていますが、絵画や版画、写真、工芸などジャンルを問わず毎年さまざまな作品の寄贈を受けています。塩谷定好と奈良原一高のまとまった写真作品のご寄贈は記憶に新しいところです。20年の試行錯誤の時間はゆるやかに着実な成果につながっていると言えましょう。
一方、内に眼を移せば開館以来の課題であったコレクションのデータベース作成はほぼ作業を終え、遠からず皆様にご利用いただけるようになります。また外国人への案内サービスでは英語と韓国語に加えて2月から中国語サイトが開設されました。昨秋から始まった学芸員による連続美術講座は好評裡に継続中で毎月1回実施しています。
さて本年開催する開館20周年記念展は、先に紹介した「北斎―永田コレクションの全貌公開〈序章〉」に始まり、次いで「堀江友聲―京に挑んだ出雲の絵師」そして「黄昏の絵画たち―近代絵画に描かれた夕日・夕景」です。なお壮大な永田コレクションは、今後およそ10年をかけて調査し数回の展覧会でその全貌を公開する予定です。
2019年3月
島根県立美術館館長 長谷川三郎
1991年(平成3年) | 1月 | 博物館整備検討委員による「博物館整備に関する提言」提出 |
1991年(平成3年) | 11月 | 「文化施設整備基本方針」発表 |
1994年(平成6年) | 2月 | 島根県立美術館基本構想制定 |
1994年(平成6年) | 10月 | 島根県立美術館建設委員会設置 |
1994年(平成6年) | 11月 | 設計競技参加10者を選定 |
1995年(平成7年) | 4月 | 美術館建設室設置 (株)菊竹清訓建築設計事務所案を設計競技の最優秀作品に決定 |
1996年(平成8年) | 10月 | 建設着工 |
1998年(平成10年) | 6月 | 本体工事竣工 |
1999年(平成11年) | 3月6日 | 開館 |
2018年(平成30年) | 4月4日 | リニューアル |
幅広い視野で多彩な企画展を開催します。また主に収蔵作品によるコレクション展を行います。
絵画、版画、写真、工芸、彫刻等、各分野の優れた作品を収集します。特に次の領域に重点をおいて収集を行います。
美術作品の学術的研究、ならびに作品の展示・保存や、教育普及などに関する専門的な調査研究を行います。
展覧会に関連する講演会や創作講座のほか、美術図書の公開を行うなどさまざまな活動を行います。また自由な作品発表の場を提供します。
収蔵作品の情報や、県内外の展覧会情報などをデータベースに蓄積し公開します。
当館は、2005年4月に指定管理者制度を導入しました。
学芸部門は島根県の直営とし、広報や運営・管理部門を指定管理者に委託する業務分担方式をとっています。
期 間 | 2020年4月1日~2025年3月31日(5年間) |
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指定管理者 | SPSしまねグループ |
展示部門 3,862 | 教育普及部門 729 | サービス部門 1,964 |
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企画展示室 1,153 展示室1(絵画) 737 展示室2(版画) 211 展示室3(工芸) 163 展示室4(写真) 360 展示室5(彫刻・小企画) 378 ギャラリー 860 |
ホール 252 アートスタジオ 104 講義室 82 アートライブラリー 242 キッズライブラリー 49 |
エントランスロビー 1,310 2階ロビー 422 ミュージアムショップ 109 レストラン 99 授乳室 15 ロッカールーム 9 |
穏やかな波状のカーブを描く高い天井を持つロビー空間に足を踏み入れると、目の前に美しい湖の景観が広がります。風景と一体化したような優美な建物の形態は、水面と大地をつなぐ「なぎさ」をイメージしたものだといいます。
チタン製の大屋根は、日光を柔らかく反射します。対岸から見る時の視線を意識し、背後の山並みを遮らないように高さは低く抑えられています。屋根の円い開口部は展望テラスとなっています。
メインエントランスは冬の北西の季節風を避ける位置に設置され、ロビーから湖の景観を楽しみながら展示室へとアプローチができます。
設計者の菊竹清訓氏は多くの美術館・博物館建築を手掛けていますが、その中でも島根県立美術館は自然環境との見事な調和を見せる名建築と言えます。
菊竹清訓(1928~2011年)
福岡県に生まれる。1950(昭和25)年早稲田大学理工学部建築学科を卒業し、1953年、25歳で菊竹建築研究所を設立。ブリヂストンタイヤの創業者・石橋正二郎からの依頼で石橋文化センターの設計を行う。1958年、生活空間を自由に組み替える自宅「スカイハウス」を世に送る。1958年から“海上都市”を構想し、1960年代に新陳代謝する建築や都市を追究するメタボリズム論を提唱する。また、「か(構想)・かた(技術)・かたち(形態)」の設計理論を展開した。2000年のユーゴスラヴィア・ビエンナーレで「今世紀を創った世界建築家100人」の一人に選ばれる。
イメージ
田中一光(1930~2002年)
奈良市生まれ。1950年京都市立美術専門学校(現京都芸大)卒業。1960年日本デザインセンター創立に参加。1963年田中一光デザイン室主宰。日宣美会員賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ銀賞、毎日デザイン賞、芸術選奨文部大臣新人賞、ニューヨークADC金賞、東京ADC会員最高賞、毎日芸術賞、日本文化デザイン大賞、TDC会員金賞、朝日賞、第一回亀倉賞などを受賞。N.Y.及び東京ADC殿堂入り、紫綬褒章受賞、文化功労者表彰。